終活カウンセラーとしてよりも前に、一人の女性として観ておきたかった映画『私のちいさなお葬式』。

 

医者からの宣告で、自分のお葬式の準備を始める女性の物語で、コメディータッチの人情劇です。


主人公の名はエレーナ。

原題は『Thawed Carp』。何と“解凍した鯉”という意味。

 

*亡き夫と暮らした田舎町で老後生活をしている元教師のエレーナ
*都会に出てビジネスを成功させ、5年も帰省をしないひとり息子
*何でもズバッとものを言い合える同世代の女性隣人たち
*地域のあちこちで仕事に就いている元教え子たち
*主人公の反対で、息子と別れて荒れてしまった息子の元カノ
*都会の老人施設に入居し、うつろな表情でダンスを踊る老人たち
*赤い棺桶と自撮りをする若者

*力強い生命力を感じさせる解凍された鯉

 

個性の強い人物たちが次々登場してきます。個性の強い顔がカメラ目線のアップになると、劇場で何となく笑いが起こりました。そして鯉が重要な脇役を果たしています。

 

近所の女性たちは、エレーナの息子が5年も帰らないことを皮肉っぽく口に出します。「そのことは言わないで。」というエレーナは、もちろん寂しさを感じつつも、田舎に留まらず、都会で成功した息子が自慢でもあって、その表情から何とも複雑な心情が伝わってきます。
その息子は息子で、親の今後を考え、高齢者施設の見学に行ったりするのですが・・・。

 

お墓事情などは日本と違っても、離れて暮らす高齢親とどう向き合うか、というテーマは共通のものです。クスッと笑える場面が散りばめられ、赤い棺桶を路線バスで運ぶ場面は何ともシュール。

 

劇中に「恋のバカンス」のロシア版が流れてきました。ロシア語で歌われたそれは、何となく哀愁が漂っています。

 

子どもの頃に、ザ・ピーナッツがこの曲をテレビで歌っていたのをよく覚えています。そして上映中にもかかわらず、ザ・ピーナッツが出演した映画の『モスラ対ゴジラ』を観ている幼い自分を思い出しました。

 

劇中のエレーナの姿に加えて、この挿入歌が1960年代の幼い自分を思い起こさせ、老いに向かう今の自分を自覚させてくれた気がしています。

 

死と向き合う内容ながら重たさはなく、人の温かさや想いがじんわりと伝わってくるストーリーです。上映される映画館は少ないのですが、きっと観た人誰もが、何かしら自分の人生に寄せて感じるものがある作品なのではないでしょうか。