相続・終活の講座などでは、基本知識が中心となるため、まだあまり取り上げられていない話題があります。

 

不動産関係の間では知れ渡っている『生産緑地の2022年問題』です。私は実務ではなく、カウンセラーとして“気づき”の役割を担うため、ここでは難しい説明ではなく、メッセージをお伝えしたいと思います。

 

今回投げかけたいテーマは、
空き家の実家不動産をどうしますか?何も考えなくて大丈夫ですか?

 

数年後、都市部で多くの土地が売りに出されると予測されています。理由は、「生産緑地」には30年間という期限がありますが、生産緑地法が出来て2022年に初めてその期限を迎えるからです。

 

 

生産緑地は、都心の住宅地でよく見かけると思いますが、宅地よりも税の面で優遇されています。しかし、指定には条件も色々あり、耕作をする後継者がいないことで、都内でも大量の土地が売りに出されると予測されているのです。

 

生産緑地は駅に近い、立地の良い所にも存在し、こうした利用価値の高い土地の供給を、不動産屋は手ぐすね引いて待っている状況です。実際に優良物件が多く出れば、条件の悪い物件など、不動産屋・買い手が興味を持たないのは当然のことです。

 

不動産には経費がかかります。都市部で大きいのは固定資産税の負担です。所有していれば、固定資産税がゼロになることはありません。「不要な不動産を持ち続けることのリスク」にもなっていて、『負動産』という当て字まで作られてしまいました。

 

既に地方では「不動産屋への手数料・その他経費にマイナスが出ない」程度の価格、本来の不動産価格とは思えない金額で土地が売られるケースもあります。それでも不要な土地を手放せることで、固定資産税の経費削減のメリットは大きいからです。

 

この様な状況を踏まえ、お勧めしたいのは、「もし実家不動産を売ることになったとしたら」を過程して、一度不動産屋に土地を見て貰うことです。実際に売るかどうかは別として、「売ることを前提」に相談に乗ってもらうことで、その地域の不動産情報を得られ、将来を考えるきっかけともなっていきます。

 

そして、不動産を売るというのはいかに大変か、を知る人もいるでしょう。土地というのは、売却しなければという状況になって、すぐに売りに出せるとは限りません。過去の経験が「買う側」だった人はピンとこないかもしれませんが、売る前には揃えないといけないものがあるのです。

 

現実的に、土地の売却には隣接のハンコが必要です。しかし必ずしも隣接所有者がそこに住んでいるとは限りません。遠方の相続人に所有権が移っているケース、所有者が認知症になっているケース、また行方不明となっていることもあり、土地を「売れる状態」にするにはそれなりの期間が必要なのです。

 

また、過去に親から「ここは問題がある土地だから売ることは出来ない」と言われ、そう思い込んで諦めている人がいるかもしれませんが、それでも一度、ダメ元で不動産屋に相談に行ってみてもいいのです。

 

仮に道路に面している所が20cmほど足りないために、そのままであれば再建築が許可されない土地でも、専門家が入ることにより、隣の所有者に提案をして、協力をして貰える場合もあるからです。

 

例えば、隣接所有者が同時期に入居した同世代であると、同じ様に年を重ね、売却時期も同時期になることがあり、交渉しやすいタイミングに当たることがあります。隣も売りに出す時でしたら、数十センチの調節が叶いやすくなります。

 

また意識も以前とは変わってきています。隣が空き家となり荒れていくことの悪影響が周知され、少し協力することで、隣の土地の環境が荒れ地にならないのであれば、土地の一部を売ることをOKして貰えることもあります。

 

ダメ元でも、動いた人にはラッキーが訪れることがあるのです。

 

実際にはどの様な選択をするかは、その人次第、事情次第です。しかし、この先は不動産の売り手側が厳しい状況になるのですから、自分の所有する不動産について、今こそ、考えるにふさわしい時期だと言えます。特に実家の『思い出』のためだけに土地を持ち続けている人には、その生活を支える根拠を持つことが必要です。

 

例えば、隣の所有者が所有者不明の土地だとすると、筆界特定制度というのを使います。これは法務局への手続きになるのですが、数か月から1年、そして境界杭を入れるとしたら裁判を起こし、それにまた数か月、計1年半くらいかかる見通しとします。(※これは一つの目安であり、各ケースにより期間は異なります) 何事もまずは準備からだと心得て下さい。

 

2025年は、団塊の世代が後期高齢者となり、介護費・医療費の負担の大きさが莫大になることが分かっています。行政も国も、対応が追い付けるとは思いませんし、個人の負担が重くなることは十分に予測できます。いまだかつて日本が経験したことのない社会を私たちは生きているのです。特養老人ホームへの入居条件は、今より条件が厳しくなるかもしれませんし、この日本の実情を知り、個人としても、少しでも生活が良い方向へと向かうよう準備が必要です。

 

「負担」にも「助け」にもなる不動産。その価格から考え、不動産での損得は、生活へ大きな影響を及ぼします。準備を整え、きちんと対処法を得て、いくつかの選択を持つことによって、シニア生活をより良く暮らせるかどうかの、分かれ道となるのだと思います。

 

最後に俯瞰をした意見を述べさせていただくと、
活用されず、荒れていくばかりの状態で実家を持っていても、それは喜ばしいことではありません。気持ちの整理を行い、思い込みから解放された上で土地を活かしてこそ、その地域への貢献につながり、個人の幸せにもつながるのではないでしょうか。