これは私の実体験です。

シニア関係と言ってもかなり幅広いので、ある学びに参加したところ、とんでもない遺言書講座を受けることになりました。私個人は遺言書についての知識を持っていますが、カリキュラムの中に組み入れられていたものです。名前も日付も場所も、具体的な情報は記載せず、大切なエッセンス部分をお伝えします。

 

 

その遺言書の講座は、主催者はある団体でした。なので雇われ先生だったとは言え、驚くことに、何も事前準備がなく、会場にいきなり身ひとつで来て、適当に小一時間話して帰っていったというのが正直な感想です。相続割合を答えさせる質問で、〇基本形として、親夫婦・子2人の親が亡くなった時、〇父親が再婚で先妻の子がいたら、〇配偶者が内縁だったら。〇子が先に亡くなっていたら・・と設定を次々変えるのはいいのですが、その問題専用の資料もパワーポイントも準備せず、目の前にホワイトボードがあるにもかかわらず、図ひとつ、字も一文字たりとも書きませんでした。

 

ここからは、内容について納得できなかった所をお伝えします。くれぐれもカッコ内は疑問点ですので、文章のまま受け取らないで下さいね。

 

疑問点1:公正証書遺言は秘密がバレやすい!

講師「公正証書遺言は証人が2人必要です。だからその証人が結構バラしちゃうんですよね。世間では公正証書遺言にした方が良いなどと言われてますが、遺言書の中で公正証書遺言は一番秘密がバレやすいんです。」

疑問点2:公正証書遺言を作成する時、相続人が口を出すのでやりずらい!

講師「公証役場で自分の取り分が少ないじゃないか、などと口を出す相続人がいて、自分の希望通りの遺言を作れない恐れがあるんですよ。」

疑問点3:不倫相手に相続させることが出来るのか、という質問への答え

講師「遺言書を書けば愛人に財産を遺贈できますよ。」(補足なし)

 

あまりに偏りのある公正証書遺言に関しての説明を聞いて、この人は、自筆証書遺言のサポートをして収入を得ようとしている人なのだろうと、直感が働きました。公正証書遺言に悪いイメージを擦りこもうという意図を感じたのです。普通でしたら、それぞれの遺言書についてメリット・デメリットの両方に触れるのが基本中の基本です。

 

ちなみに証人についてですが、今は公証役場で証人を紹介して貰え、有料で依頼をすることが出来ます。当然個人情報は守ります。何も口の軽い知人にわざわざ依頼しなくて良いのですが、それを前提にしてしまう所が疑問でした。各士業も証人となるサービスを提供している人はいますし、何を言っているのやら、という印象しかありません。

 

また疑問点2は、法定相続人は証人にはなれませんので、公正証書遺言の作成において、相続人が隣で口を出すことなどないのです。

 

疑問点3は、即答で不倫相手への相続可能を言い切ったのですが、実際にはケースバイケースです。裁判においては、夫婦関係や不倫相手との関係を考慮して判断されるものです。いくら不倫が流行っているとは言え、この様な安易な物言いで、愛人への遺言書を作らせては報酬を貰っている?とまで疑ってしまいました。それが無効であっても、既に亡くなっている依頼者には文句を言われないからでしょうか。

 

この様な偏りのある講座、一般の人は信じてしまうかもしれない、と思うと背筋が震えました。

 

そして講座中、その講師は受講生にある質問をしました。
「あなたが遺言書を書くとしたら、その動機は何ですか?」
動機ですから、人それぞれでいいわけですが、参加者が「子どもがいるから」と動機を答えた途端、話をすり替えました。「遺言書を書けば何でもその通りになると思ってるんですね。」そんな質問ではありませんでしたし、そんな事はひと言も答えていないですし、みごとに話を作り、その場の空気を悪くしていました。

 

結局、講座の時間も守られず、おかげで昼休みの時間は短縮されました。参加者たちは知らない街でお店を探し、時間内にランチを済ませ戻るのは負担でした。昼食中、参加者たちの不満の声が上がっていたのはご想像通りです。

 

そして何よりも悲しいのは、それでも士業信仰している主催者です。勉強し、相続・遺言の経験を積み、日々精進している同じ士業にとっても、このレベルは迷惑な存在だと思います。その資格の品格も下げてしまいますよね。

 

相談する所を選ぶ人への私からのアドバイスです。

 

士業で態度が大きい人に当たった場合は、その空気に飲み込まれずに、冷静に観察して下さい。上から目線は、ほぼその分野についてスキルのない士業です。相手にスキを与えてはボロが出るため、まず態度で予防線を張ります。その分野に詳しく、本当にうまくいっている士業は雰囲気が良く、少なくともフラット(普通)です。自身が積み上げてきた実績・信用を自ら壊すようなオーラは出さないものです。仮にまだ新人であっても、誠実さを感じれば不安なところはベテランの先輩に確認しながら、一生懸命に事に当たってくれるので、「あり方」というのが大事だと思います。

 

また相続については、100家族あれば100のケースが存在するので、質問にその場で答えないことは弁護士でも普通にあることです。基本的な事は別にして、個別の事情については、持ち帰り、過去の判例を調べて後で答える、というのが誠実な対応です。

 

蛇足ながら[相続税率55%]としか伝えない講座も怪しいですので、お気をつけ下さい。決して嘘ではありませんが、これは課税価格が6億円超えのとき。10%から段階を経ての最高税率ですので、他の数字にあえて触れないのは何か意図を感じます。「悪質」とまでは言わなくても、「誠実」ではなさそうです。

 

誠実さに欠ける専門家は、勉強も怠りますし、必要以上に恐怖心を煽り、質の悪い対策を勧めることがあります。

 

これをお読み下さっている皆さんは、長い人生経験をお持ちだと思いますし、“直感”というのは、その経験の上に立ったものです。難しい資格を持っていることと、「この人に悩みを話せるか」「信用できるか」は全く別物です。人の人生を軽く見ている人には、自分の悩みは話せないと思いますので、嫌なオーラを感じたら、別の相談窓口へ行く選択をお勧め致します。